市民後見ニュースレター2021年7月号を発行しました

今回のテーマは「後見制度支援信託」についてです。

ある親族後見人のある日の日誌もご一読ください。

 

押さえておきたい基本の「き」 ~成年後見入門⑩

ある親族後見人の業務日誌をご紹介し、成年後見制度の実情について
皆さんに知っていただきたいと思います。
その前に今回のテーマである「後見制度支援信託」について触れておきます。

ℚ:後見制度支援信託って耳にすることがあるけれどどのようなものなの?

後見人等に選任される時点で、ご本人の財産の額や種類が多い場合、
または開始または選任された後に不動産を売却したり、遺産分割などにより
ご本人の財産の額や種類が多くなった場合、家庭裁判所は監督人を選任することがあります。

監督人を選任する他にも、後見の場合には「後見制度支援信託・後見制度支援預貯金」
の利用を勧められることがあります。
「後見制度支援信託・後見制度支援預貯金」は、法律で定められたものではなく、
必ず利用しなければならないものではありませんが、拒否した場合、
裁判官の判断により監督人が選任されることがあります。

【後見制度支援信託】

「後見制度支援信託」は、ご本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を
預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことで、
利用できるのは後見のみで、保佐、補助、任意後見は利用できません。
「後見制度支援信託」を利用すると、信託財産を払い戻したり、信託契約を解約するには、
あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要となります。
財産を信託する信託銀行等や信託財産の額などは、原則として弁護士、司法書士等の専門職後見人が、
ご本人に代わって決め、家庭裁判所の指示を受け、信託銀行等との間で信託契約を締結します。
信託契約の締結には、関与した専門職後見人(信託等後見人)に対する報酬と
信託銀行等に対する管理報酬が必要となります。
信託等後見人に対する報酬は、家庭裁判所が決めるのですが、信託銀行等に対する報酬については、
信託商品や信託財産の額によって異なってきます。
後見人が行う金銭管理はというと、年金の受け取りや施設入所等のサービス利用料の支払といった
日常的なものになります。
ご本人に多額の支出が必要になり、後見人が管理している金銭だけでは足りなくなった場合は、
家庭裁判所に必要な金額とその理由を記載した報告書に裏付け資料とともに提出します。
家庭裁判所は、報告書の内容に問題がないと判断すれば指示書を発行します。
それを信託銀行等に提出して、必要な金銭を信託財産から払い戻しします。
また、ご本人の収支状況が変更し、信託財産から定期的に送金される金額を変更したい場合や
事情により信託契約を解約する必要が生じた場合も、家庭裁判所に報告書を提出して、
指示書の発行を受ける必要があります。
信託契約の締結後、ご本人に臨時収入があり、後見人が管理する金銭が多額になった場合も、
家庭裁判所に追加信託の報告書を裏付け資料とともに提出し、指示書の発行を受け、
信託銀行等に提出して追加信託を行います。
「後見制度支援信託」は、法律で定められたものではありませんが、
信託財産は元本が保証され、預金保険制度の保護対象にもなります。

 

【後見制度支援預金】

「後見制度支援預貯金」は、本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を
預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する
「後見制度支援信託」に代えて、銀行、信用金庫、信用組合、農業協同組合(JA)等の
金融機関で開設できる「後見制度支援預貯金口座」に預け入れる仕組みのことです。
預け入れた預金を払い戻したり、支援預貯金口座を解約したりするには、
あらかじめ裁判所が発行する指示書が必要であるといったことは「後見制度支援信託」と同様です。
後見のみ利用でき、保佐、補助、任意後見では利用できないことも、「後見制度支援信託」と同じです。
「後見制度支援預貯金」を取り扱っている、信用金庫、信用組合、農業協同組合、
JA・都銀・地銀の金融機関については、一覧になっていて、家庭裁判所に問い合わせることもできます。
後見制度支援預貯金の口座を開設するには、関与した専門職後見人(信託等後見人)
に対する報酬と口座開設手数料などの手数料が必要となります。
信託等後見人に対する報酬は、家庭裁判所が決めます。
後見人が行う金銭管理はというと、年金の受取や施設入所等のサービス利用料
の支払といった日常的なものになります。
後見制度支援預貯金開設後、ご本人に多額の支出が必要になり、後見人が管理している金銭だけでは
足りなくなった場合は、払戻しのため指示書が必要になり、家庭裁判所に連絡して指示書を発行してもらいます。
それを支援預貯金開設の金融機関等に提出して、必要な金銭を払い戻しします。
「後見制度支援預貯金」は、「後見制度支援信託」と同様に、法律で定められたものではありませんが、
元本が保証され、預金保険制度の保護対象にもなります。

//後見人の業務//
〜ある親族後見人のある日の日誌より〜

今回、紹介するG さんについてご説明します。
G さん: 51歳 女性
10年前に母親を亡くし、母親が亡くなった後、障害
者グループホーム※ に入居し、現在も入居中。
兄弟姉妹なく、自宅で一人暮らしをしていた父親も
半年前に亡くなる。
父親は賃貸住宅に住んでいたが、G さんの将来を
懸念して預貯金は残しており、死亡保険にも加入し
ていたことから、その相続手続が必要となる。
伯父伯母の親族は高齢で、遠方に居住していること
から関与できないため、母親方の従兄の○○さんが
後見人候補者となり、司法書士に申立を依頼する。
相続した金額が多かったため、家庭裁判所は成年後
見支援信託の検討すべきと弁護士の専門職後見人も
選任された。

※障害者グループホーム
障害者総合支援法に元づいて支給されるサービスである障害福祉サービス
の中の1つで、障害を抱えている人たちが一緒に日常生活を送っていく住居
のことを指します。
一軒家やアパートなどに定員10人以下で共同生活をし、世話人や支援員と
呼ばれる職員が利用者の食事の用意やお風呂、トイレなど介助といった日常
生活上の援助を提供します。

【ある親族後見人のある日の日誌】

○○月○○日
従妹のGさんの後見人になり、責任もあることから備忘録のた
めに日誌を付けることとする。
一昨日、Gさんの専門職後見人から連絡があり、引継を受ける
ために弁護士の事務所を訪問する。
後見制度支援信託を利用するとのことだが、どういうものか分
からず、質問して詳しく説明を受ける。
Gさんの預貯金が多額のため、後見制度支援信託の利用につ
いて検討するように家庭裁判所に専門職後見人として選任さ
れた。検討の結果、利用が適していると判断して、信託する財
産や後見人が日常的に支出する額を設定した報告書を家庭
裁判所に提出した。
家庭裁判所は報告内容を確認して、後見制度支援信託の利
用に適していると判断したため指示書を発行した。
その指示書を、利用する信託銀行に提出して、契約の締結が
完了したため、今後は関与する必要がないので、専門職後見
人としては辞任とのことだった。
それで、専門職後見人が管理していたGさんの財産や書類な
どの引継を受ける。
今後、財産管理については、信託した財産は信託銀行で管理
されるので、親族後見人としては年金の受け取りや施設の利
用料の支払などを行えばいいとのこと。
金銭が足りなくなれば、家庭裁判所に必要な額とその理由を
記入して報告書を提出するようになるとのことだった。