市民後見ニュースレター2021年3月号を発行しました

今回のニュースレターの特集は「成年後見と不動産」です。高齢者にまつわる不動産の問題は、社会的にも大きな課題となっております。日誌形式で活動をまとめたものを掲載しましたのでぜひご一読ください。

 

(以下:文章内容)

押さえておきたい基本の「き」 ~成年後見入門⑥

今回はある後見人の業務日誌をご紹介し、成年後見制度の実情について
皆さんに知っていただきたいと思います。その前に「成年後見と不動産」について少し触れておきます。

【成年後見と不動産】

ℚ:不動産や住居に関することはどこまでしていいの?

後見人・・・法律行為の代理権が付与されているため、
不動産に関する【代理行為目録】に記載されている行為については、
→本人に代わって行うことができる

保佐人・補助人・・・代理権を付与されていないため、本人に代わって行うことができない。
→ただし、家庭裁判所へ代理権付与の申立をして申立が認められれば、本人に代わって行うことができる

成年後見制度において、後見人は法律行為の代理権が付与されているので、不動産に関する【代理行為目録】に記載されている行為は、本人に代わって行うことができます。
保佐人・補助人は、代理権を付与されていないので、家庭裁判所に申立時に、不動産に関する【代理行為目録】の必要な箇所にチェックを入れ、代理権付与の申立をして申立が認められれば、本人に代わって行うことができます。

不動産に関する 【代理行為目録】は、次のようなものがあります。
・ 本人の不動産に関する売却
・ 本人の不動産に関する担保権設定
・ 本人の不動産に関する賃貸
・ 他人の不動産に関する購入契約の締結・変更・解除
・ 他人の不動産に関する借地契約の締結・変更・解除
・ 他人の不動産に関する借家
・ 住居等の新築・増改築・修繕に関する請負契約の締結・変更・解除

さらに、本人が現在居住している不動産(施設・病院等からの退所・退院後に居住する予定の不動産を含む)処分については別の申立が必要になります。

※居住用不動産について処分する場合は、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可申立書」の申立をし、許可を得る必要があります。

【本人の居住用不動産処分についての留意点】
後見人や代理権を付与された保佐人・補助人が、不動産に関する 契約の代理行為ができるとはいえ、本人にとって、現在居している建物や敷地に係わる不動産のみならず、現在、施設に入所していたり、入院していても、退所後、退院後に居住する予定の不動産も含め処分するということは、非常に重要なことです。
後見人等が、代理権を有していても、本人が居住している不動産に関する契約を勝手にできるものではありません。
そうした居住用不動産を処分する場合は、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可申立書」の申立をし、許可を得る必要があります。
許可なく行えば、無権代理、越権行為ということになります。
また、この申立が必要なのは、持ち家だけでなく、借地、借家などの賃貸住宅の契約も含まれます。
ただし、任意後見人は、任意後見契約書で定められたとおり行えば家庭裁判所に許可を取る必要はありません。

※本人が住んでるいる不動産は勝手に処分できません。

では、同意権はというと、保佐人には自動的に付与されていますが、補助人には付与されていません。
補助人は、家庭裁判所に申立時に、不動産に関する【同意権目録】の必要な箇所にチェックを入れ、同意権付与の申立をして、申立が認められれば、本人が行った法律行為に同意する権利が付与されます。
ご本人が行う契約に、保佐人・同意権が補助人の同意がなければ成立しませんし、保佐人・補助人の同意なく行われた契約は、取り消すことができます。

不動産に関する【同意行為目録】は、次のようなものです。
・ 本人所有の土地又は建物の売却
・ 本人所有の土地又は建物についての抵当権の設定
・ 新築・改築、増築又は大修繕
・ 民法602条※に定める期間を超える賃貸借

※同意権があれば、本人が間違って不動産の売買契約をしたりしても、取り消すことができて安心。

※民法602条
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、
次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借           5年
建物の賃貸借                 3年
動産の賃貸借                 6か月

 

≪後見人の業務 〜ある後見人のある日の日誌より〜≫

説明が長くなりましたが、今回のメインテーマである後見人の業務日誌をご紹介します。
認知症で一人暮らしをされている方の住居探しに後見人が同行した時の事例です。
高齢者の居住、特に賃貸借契約はとても難しいテーマで、今度必ず社会で対応していかなければならない問題が数多くあリます。
今回は、そんな高齢者の居住にまつわる問題を皆さんにも知っていただければと思います。

今回紹介するC さんについてご説明します。

C さん : 78歳 女性

両親・ご兄弟はすでに他界していて、賃貸住宅に一人暮らし。
至って健康で活動的。一人でいろいろな所に出掛けていましたが、銀行で暗証番号を忘れたり、印鑑が分らなくなり、お金を下ろすことができずトラブルになることが多々発生。
また、買い物でお金の遣り取りがうまくできないなどの問題が生じ、徐々に生活に支障をきたすことが増え受診。
認知症と診断され、1年前から後見人が選任されています。
最近、入居しているアパートが老朽化のため建て替えの話が持ちあがっていましたが、大家さんが亡くなり、子供さんが相続したためアパートを売却することが決まり、1年以内に退去するように言われています。

【ある後見人のある日の日誌】

○○月○○日 本人と一緒に不動産屋へ同行する。

09:30~11:45  週1回の定期訪問も兼ね自宅を訪問。
お金の管理が自身では難しいため1週間分のお小遣い1万円をお渡し、受領書に署名をしてもらう。
後見人就任時、ご本人の預貯金はほとんどなかったが、年金は月額○○円あり、
きっちりと管理しているので、少しずつ預貯金は貯まりつつある。
本人は今までと同額くらいの家賃で、この地域での一人暮らし(賃貸住宅に住みたい)希望。
その後、近所の不動産屋に同行する。

①○○不動産 : この地域でなく、かなり古い物件なら大家への確認は必要だが1件はある。
本人は、今の住んでいる所から遠いことに難色を示す。
他を打診するが、高齢者の一人暮らし、後見人が就き緊急連絡先となって、
家賃を本人の財産から責任を持って支払うと言っても、保証人でないと難しい。
②△△不動産 : 現在、この近隣に一人住まいの高齢者が入居できる物件はない。
大家は親族がいないと、本人が亡くなった後部屋に残された荷物などの処理ができず困ると嫌がられる。
③□□不動産 : 高齢者の一人暮らしは大家が避けたがる。
(認知症)だと、火の後始末ができずにボヤ騒ぎを越す懸念もあり、後見人が同居していればいいが、
急に倒れ、入院したりと、何かあった時には大変になるのは大家なので、と難色を示す。