市民後見ニュースレター2021年4月号を発行しました

今回のニュースレターの特集は「成年後見と死後事務」です。

本人が亡くなった後、成年後見人はどこまで関わればよいかについては難しい問題がありますが、是非ご一読ください。

 

(以下:文章内容)

押さえておきたい基本の「き」 ~成年後見入門⑦

ある後見人の業務日誌をご紹介し、成年後見制度の実情について皆さんに知っていただきたいと思います。その前に今回のテーマに関連する「成年後見と死後事務」について触れておきます。

ℚ:本人が亡くなられたらどこまで関わればいいの?

ご本人が亡くなられたら成年後見は当然終了となりますが、
次の2つの業務は残ります。
① 未精算の費用等を清算して収支の計算をし、相続人に引継ぐ財産を確定する。
② 相続人へ相続財産の引渡しを行う。
これは、後見人だけでなく、保佐人・補助人も同じです。
本人が亡くなられた日から2か月以内に行います。
家庭裁判所には、まず死亡診断書等のコピーを添えて本人死亡の連絡をし、
上記の①、②が完了したことの報告を行えば終了となります。
その間に、東京法務局に後見(保佐・補助)終了登記を申請します。

【死 後 事 務】

ご本人が亡くなった後も行う事務を死後事務といい、具体的な例としては、遺体の引き取りや火葬、本人の生前にかかった医療費や入院費に公共料金等の支払などです。
こうした死後事務については、平成28年10月13日の民法改正前から応急処分義務(民法第874条※1において準用する第654条※2)等の規定で、実務上は対応していましたが、行うことができる事務の範囲が必ずしも明確でなかったため、対応に苦慮しているのが現状でした。
そこで、法改正が行われたのでのですが、これは、あくまでも後見人のみで保佐人・補助人は対象ではありません。
保佐人・補助人は、今まで通り、事務管理や応急処分義務により対応するしかありません。

※1 民法第874条
第654条及び第655条※3の規定は、後見について準用する。

※2 第654条
委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若し くは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。

※3 第655条
委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。

ℚ:民法の改正で何が変わったの?

新設された民法第873条の2※1で、本人の死亡後も、後見人は一定の範囲の事務を行うことができることとされ、その要件が明確にされています。
行うことができるとされた死後事務は、次の3種類です。
①・相続財産に属する債権について、時効の完成が間近に迫っている場合に
行う時効の中断(債務者に対する請求。民法第147条第1号※2)
・相続財産に属する建物に雨漏りがある場合にこれを修繕する行為
②・本人の医療費や入院費および公共料金等の支払
③・遺体の火葬に関する契約の締結
・成年後見人が管理していた本人所有に係る動産の寄託契約の締結(トランクルームの利用契約など)
・本人の居室に関する電気・ガス・水道等供給契約の解約
・債務を弁済するための預貯金(本人名義口座)の払戻し
実務上は、従来から行っていた死後事務ですが、後見人の場合は上記のように行うことができる死後事務が明文化されています。
ただ、③の死後事務(民法第873条の2第3号※1)を行う場合は、家庭裁判所の許可が必要となり、
【成年被後見人の死亡後の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結のその他相続財産の保存に必要な行為についての許可】の申立をし、許可されれば行うことができます。

ℚ:死後事務を行う要件ってなに?

【死後事務を行う要件】
① 後見人が当該事務を行う必要があること
② 本人の相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと
③ 後見人がこうした事務を行うことについて、本人の相続人の意思に反することが明らかな場合でないこと

ℚ:火葬って書いてあるけど葬儀って別 ?

葬儀を行う権限までは、後見人に与えられていないので、葬儀を執り行うことはできません。
葬儀には、宗派、規模等によって様々な形態があり、その施行方法や費用負担等をめぐって、事後に後見人と相続人の間でトラブルが生ずるおそれがあるためです。
ただし、後見人が後見事務とは別に個人として参加者を募って、参加者から徴収した会費を使って無宗教のお別れ会を開くことは可能と考えられています。
では、納骨はというと、遺骨の引取り手がいない場合等、後見人が遺体の火葬とともに納骨堂等への納骨に関する契約を締結することは考えられます。
納骨に関する契約も「死体の火葬又は埋葬に関する契約」に準ずるものとして、家庭裁判所がその必要性等を考慮し、判断することになっているので申立が必要です。

※1 民法第873条の2
成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。
ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
1 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
2 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済
3 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く)

※2 民法第147条
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は完成しない。
1 裁判上の請求
2 支払督促
3 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)
若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
4 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

 

≪後見人の業務 〜ある後見人のある日の日誌より〜≫

説明が長くなりましたが、ある後見人の業務日誌をご紹介します。
ご本人が病院で亡くなられた事例です。
ご本人が亡くなられた直後の死後事務について、どういうものなのかを知っていただければと思います。

ℚ:後見人って死亡届を出すことができるの?

死亡届を出すことができるのは、親族・同居者・家主・地主・家屋管理人・土地管理人等・後見人・ 保佐人・ 補助人・任意後見人・ 任意後見受任者です。
死亡を知った日から7日以内に届書を作成し、死亡者の死亡地・本籍地または届出人の所在地の市役所(区役所・町村役場)に死亡診断書(死体検案書)を持参し届け出ます。
火葬・埋葬するための許可書が発行されます。

今回、紹介するD さんについてご説明します。

Dさん : 78歳 男性 両親、配偶者、子供さんも他界し、関与できる甥姪等もいらっしゃいません。
賃貸マンションに一人暮らしです。
数年前に肺気腫と診断され入院、手術を受け退院しました。
退院後は、月1回の通院以外は自宅で過ごすことが多く、体力の低下とともに介護ヘルパーを依頼し、
何とか日常生活を過ごしていましたが、徐々に認知症状が出現し、成年後見制度を利用すること
になり、半年前に後見人が選任されています。

【ある後見人のある日の日誌】

Dさんの死後事務について
○○月○○日 09:15~17:30

1週間前に風邪をこじらせ○○病院に入院していたが、2日前に肺炎を併発して状態が悪化した
と連絡があり面会に行ったが、意識なくずっと眠っているような状態だった。
それが、今朝○○看護師からお亡くなりになったと連絡が入る。
ついては打合せとおり、ご遺体の引き取りをお願いしたいとのこと。
病院に向かう前に、葬儀社へご遺体の引き取り依頼の連絡をする。

2日前に一応話をとしておいたので、すぐに対応できるとのことだった。
病院に着き、担当看護師から状況説明を受け、ご遺体と面会。
お別れをした後、入院費等の請求予定日や振り込みの可否等の確認をし、死亡診断書を受け取り、
葬儀社が来てくださるのを待って、ご遺体の引き取りに立ち会う。
葬儀社には、火葬の日程につて、家庭裁判所の許可が下りたらすぐに知らせる、
それまでご遺体を預かってもらうこと、火葬のみで葬儀は行わず、
遺骨は亡き奥様が眠る菩提寺に納骨する予定と再度伝える。

帰途、市役所に寄り、死亡届を提出し、火葬許可書・埋葬許可書を受け取る。
戻って、家庭裁判所に本人が亡くなられたこと、関与できる親族等がいない、
遺体の火葬と埋葬をすることになることを伝え、申請書を作成して提出する。
入院費や火葬費用に納骨などの支払等が諸々発生すため、銀行からまとまった金額○○○万円を引き出しておく。

明日以降は、年金事務所や口座を開設しているすべての金融機関、ヘルパーステーションや
契約していたスマートフォン、電話、新聞、NHK 、公共料金等の解約手続きをするため
一覧表にまとめ、手続を進めていくこととする。