市民後見ニュースレター2021年5月号を発行しました

今回のニュースレターの特集は「医療同意」です。

親族や医療機関にも後見人から説明する場面がありますので、是非ご一読ください。

市民後見ニュースレター 2021年5月号

(以下:文章内容)

押さえておきたい基本の「き」 ~成年後見入門⑧

ある後見人の業務日誌をご紹介し、成年後見制度の実情について皆さんに知っていただきたいと思います。
その前に今回のテーマである「医療同意」について触れておきます。

 

ℚ:ご本人が入院して手術などの同意書に署名を依頼されたらどうするの?

成年後見人等を受任すると、ご本人が入院をしたり、手術を受ける場合に直面することがあります。
入院の申込などの手続は、当然後見人の職務ですが、ご本人に身寄りがない、親族に連絡がつかない、親族の支援が得られない場合、医療機関からご本人や親族に代わって手術などの医療同意を求められることがあります。
でも、成年後見人等が医療に係る意思決定や同意ができるとする規定はなく、成年後見人等の業務に含まれているとはいえません。

 

【医 療 同 意】

多くの医療機関では、親族がいることを前提として、本人の判断能力が不十分な人の手術などについて、親族に「同意書」の署名を求める運用しています。
手術などの身体に対する侵襲性のある医療行為は、ご本人のみ決めることができると考えられているのですが、実際は親族のいる場合は、ご本人に加え親族にも説明し、同意を求めているのが現状です。
これは、ご本人や親族に対する説明義務があるという点と、万が一医療過誤が起こった場合や説明義務違反が問われる事態となった場合に、損害賠償の請求権利のある人の同意を得て、行っておこうという考え方から行われています。
ご本人が同意できる状態ではない交通事故などの緊急性の高いケースでは、ご本人や親族の同意も得ずに緊急の措置が行われますが、事後に親族に説明され、その後の措置は親族の同意のもと、行われるということになっています。
身寄りがなく、ご本人の意思が確認できない場合でも、現時点では、ご本人以外の第3者の決定・同意について、法令等で定められている一般的なルールはなく、社会通念や各種ガイドラインに基づいて個別に判断されています。
身寄りのない人や家族・親族がいても連絡がつかなかったり、親族がいても支援が得られない人の成年後見人等に、手術などに対して「医療同意」の署名を求められることがあります。
成年後見人等の第3者が医療に係る意思決定・同意ができるとする規定はなく、職務に含まれているとは言えないので、大変苦慮しているのが現状です。
ご本人が元気なうちに不十分な判断能力であっても、その意向をよく確認しておくなどし、それを医師に伝え、その判断に委ねるということになるのですが、 医療機関に対しては、「後見人には同意権はない」ということをよく説明することも必要です。
現場では、同意書に「成年後見人等には同意権はない」とか「説明はお聞きしました」という文言を付記して、後見人として署名すると言ったぎりぎりの対応をしています。
また、忘れてはいけないのは、判断能力が不十分な人であっても、ご本人には意思があり、意思決定能力を有するということを前提にし、本人の意思・意向を確認し、それを尊重した対応を行うことが原則です。

 

≪後見人の業務 〜ある後見人のある日の日誌より〜≫

今回、紹介するEさんについてご説明します。

E さん: 81歳 女性 特別養護老人ホーム(特養)※ に入居 中。
3年前にご主人を亡くし、子どもさんや支援してくださる親族はいらっしゃいません。
ご主人を亡くし後も、自宅で一人暮らしをしていましたが、
1年半前に自宅で転倒して足首を骨折して入院。
退院後は、自宅にこもりがちでベットに横になって過ごすことが増え、
介護保険を利用してヘルパーの支援を受けながら暮らしていましたが、
徐々に自宅での生活が難しくなり、特養に入居契約を結ぶことをきっかけに
後見人が選任されています。

※特別養護老人ホーム(特養)
自治体や社会福祉法人などが運営する公的施設で、一度入居すれば、基本的に終身にわたって入居ができ、食事の提供や入浴といった生活支援上のサービスに加え、介護サービスも受けられます。

【ある後見人のある日の日誌】

○○月○○日  E さんの件
09:00~09:10 E さんの入居する○○特養※の職員から電話あり。
今朝の5時半頃、ベットから落ち、とても痛がって自力で動くのが困難だったため
骨折を疑い、すぐに救急車を依頼し、○○病院に搬送されたとのこと。
救急車には職員一人が同乗し、医療・介護の保険証は持参している。
診察の結果、大腿骨骨折だったとのこと。
同乗した職員は、後見人と交代するまでは病院で待機中とのこと。
ご本人の様態も気になるし、入院手続などの書類の記入もあるため、
すぐに病院に向かうこととする。

10:30~11:45 1階のフロアーで待機中の特養の職員さんから引き継ぎを受け交代する。
入院受付で説明を受け、書類を受け取り確認。
後見人として入院申込書や病衣のリースなどの申込書を記入して提出する。

13:00~13:45 主治医から後見人として容態の説明を受けるが、大腿骨頸部骨折で手術適応とのこと。
ご本人の意向を確認をするため病室へ同行。
ご本人は、医師の判断に任せたいようだが、手術をしないリスクなども含め
医師の説明を分りやすく補足する。
やはり痛みが酷いので手術に同意された。
主治医から手術同意書の署名を依頼されたが、後見人に医療に関する同意権が
ないことなどを説明し、「同意書」の文言を消し、
「手術に対する説明をお聞きしました」に変え、
後見人として署名することに了承していただく。