【市民後見人インタビュー01】埼玉県富士見市 伊藤茂さん

「市民後見人って、一体どんな人が、何をきっかけにしてやっているの?」

市民後見という言葉になじみがない人からは、よくそんな質問をされます。

というわけで!このニュースレターでは市民後見人のその「人」自身にスポットをあて、シリーズとして数回に渡って、ご紹介させていただきたいと思います!

 

今回は、第1回目として、実際に埼玉県の富士見市で市民後見人としてご活躍中の伊藤茂さん(写真・右)と、そんな伊藤さんをサポートする「成年後見センターふじみ」の須藤紀子さん(写真・左)にお話をうかがいました。

 

 

■では、早速ですが、伊藤さん。自己紹介をお願いいたします。

私は埼玉県の富士見市で市民後見人をしております、伊藤茂です。昭和23年生まれで、74才になります。ずっとサラリーマンとして会社勤めをしていましたが、東日本大震災のあった2011年に定年退職をし、その後もさらに2年ほど勤めていました。

 

■その後は何をされていましたか?

勤めていた会社では、定年後の生活プランをサポートする研修事業があり、私はその事業に70歳までの7,8年間従事していました。その際は、経済的な側面だけではなく、退職者本人の「いきがい」を含め、高齢者が社会とどうやって関わっていけばいいかということを常に考えていましたね。

 

■市民後見人になったきっかけは?

研修事業に携わりながら、今度は私自身が退職後の高齢者としてどう生活をしていくべきかっていうことを考えていたんです。すると、ちょうどそのタイミングで、地元である富士見市の社会福祉協議会が市民後見人の養成講座をするという機会がありまして。自分が今までやってきたことの知識や経験を活かせると思い受講しました。

 

■その後、すぐに市民後見人になったのですか。

いえ。講座の後、さらに別の講座も受けつつ、6年半ほどは社会福祉協議会の法人後見の支援員やあんしんサポートねっとの支援員として活動していたんです。ただ、その活動を行っているうちに、自分で責任を持って、ご本人の立場に立った支援や活動をすることが、自分自身にとってもやりがいがあることなのでないかと考えるようになったんですね。そこで、独立をしようと市民後見人になることに手をあげました。

(*富士見市には「あんしんサポートねっと」と呼ばれる、物忘れなどのある高齢者や知的障がい・精神障がいのある方などを対象にした日常生活自立支援事業(あんしんサポートねっと)があります。)

 

■講習の前から市民後見人について知識がありましたか。

退職者の研修をしていたときに、認知症患者さんへの対応などの情報も伝えていた関係で制度の概略については勉強していたんです。ただ、きちんとした制度内容については社会福祉協議会の養成講座で学びました。

 

■講座を知ったきっかけは?

講座が始まる前に、一般の人々を対象とした講演会がありました。社会福祉協議会が主催したものですね。その中で、自分が受けることになった講座のアナウンスがあったんです。

 

■市民後見人に選任された後、なにか違いを感じましたか。

あんしんサポートねっとなどの支援員をしていたときと、内容として大きな違いはなかったとは思うのですが、自分自身の責任を感じる機会が多くなりました。

 

■心がけていることがあれば教えてください。

ご本人の立場に立って考えるということです。「どなたも同じ」というようには、決して扱えないなと。本人の経歴や生活状況をよく把握して、その人が何をしてもらいたいのか常に考えているのですが、これが全く違うのです。でも、その人に沿った計画は、そういったものを考えないと立てられないんです。

 

■例えば、ご経験上どんなことが?

そうですね、例えば私が以前担当した知的障害のある方は、ビジュアル関連の機器に相当なこだわりがありました。「大画面のテレビがほしい」「携帯電話は2年で買い換えたい」といった要望が強くあったんですね。私から見ると、くだらないとまでは言いませんが、予算的にはとても無理だと考えてしまうような物です。でも、本人にとってはその部分は大切な事だったんですね。そういった思いを尊重することの重要さも学びました。どれだけ「思い」を尊重しながら、どれだけ他の生活費を切り詰めるのか…というのを、時には人に相談しながら計画しました。実を言うと、私自身にとってもこれはやりがいのある葛藤でした。

 

■どういった方にどういったことを市民後見人としてされてきましたか。

知的障害の方や、脳梗塞で車椅子生活をしている方です。車椅子の方は発話が出来なかったため、わずかなコミュニケーションでしかやりとりができませんでした。支援としては、入院や高齢者施設への入所手続き、生活保護手続きのためのケースワーカーとのやりとりといったこともしていきました。

 

■苦労されたこともあると思いますが、やめたかったことは?

大変だと思ったことは、当然あるのですが、やめたいと思ったことは一度もないんですね。本当に全然ありませんでした。先ほど申し上げたように、ご本人のお気持ちを重んじなければならない場面というのは何度もあって、「なんでこんなことを」と思うこともあるのですが、結局は「この人の立場に立つとそうなんだろうな」「思いを実現させるにどうしたらいいのかな」と考えています。逆に問題が提起されるとやりがいがあるというか。

病院や施設の関係も含めて、本人の生活は後見人がいないとなりたたないというのを知っていますので、あれこれ大変さを感じながらもやってきましたね。

 

■では、ここで須藤さんも自己紹介をお願いいたします。

はい。私は「成年後見センターふじみ」の須藤紀子と申します。

富士見市社会福祉協議会では、市民福祉活動センターぱれっと内に「成年後見センターふじみ」を開設しています。私たちは、成年後見制度に関するさまざまなご相談に応じ、市民の皆さんを支援しています。相談窓口だけでなく、講演会といった啓発活動なども行っています。

 

■なぜ富士見市社会福祉協議会は、裁判所に選任された伊藤さんのような市民後見人にもサポートをされているのですか。

伊藤さんについては、市民後見人として家庭裁判所で選任される際、「社会福祉協議会が監督人になること」というのが要件になっておりましたのでサポートをしています。ちなみに、富士見市社会福祉協議会の法人受任で活動している支援員は、「後見人」ではなく、あくまで「支援員」として雇用している形態です。

 

■なるほど。サポートというのは、「監督人」という立場があるからだったのですね。ちなみに、今後も全ての市民後見人の監督をされるのでしょうか。

全ての後見人の監督人に…ということは現実的には今後は難しいように思われます。また別の方法をさがしていくか、いずれは単独で活動してもらっていくのかというふうに考えております。

 

■さて、伊藤さん。最後に読者の方に向けて一言いただければと思います。

市民後見人になるということは、やはり自分自身の社会参加ということで、自分自身の生きがいにつながる面があると思います。また同時に、人の人生を知ること…、言い方はふさわしくないかもしれませんが、面白くない人生ってないんですよね。知れば知るほどその人の人生は今までの積み重ねなんだなということがこの活動を通じてよくわかりました。こういう生き方もあったんだ。こういう人生もあるんだ。そんなことを学ぶ機会にもなったんです。市民後見人の仕事というものは、小説を読んでワクワクする事、それと同等もしくはそれ以上のものを知ることが出来るような仕事でもあります。

機会があったら是非、ご自身のためにも、私どものような活動に参加されてみてはいかがでしょうか。

 

■想像も出来ないようなご苦労もある中、それを「やりがいのある葛藤」と表現された伊藤さん。被後見人さんのお気持ちを最優先で考えるその姿勢に大変感動いたしました!

お二人ともありがとうございました!

 

(第4回富士見市市民後見人養成講座のご案内)

第4回富士見市市民後見人養成講座

とき:2023年10月10日(火)から12月19日(火)まで 全19回予定

場所:市民福祉活動センターぱれっと他

対象:市内在住の18歳以上の方で、すべての講座に参加でき、市民後見人として活動する意欲のある方
※受講決定前に面接を行います。

定員:25名程度

費用:テキスト代6,300円
※受講決定後に受講を取りやめても、テキスト代はキャンセルできません。

申込期間:7月3日(月)から9月15日(金)まで

申込方法:講座受講申込書に必要事項を記入の上、富士見市社会福祉協議会窓口(ぱれっと1階)にお持ちください。(平日9:00~17:00)